不調の兆候と初めての発作
大学院2年の春でした。
私は修士論文の提出を控えていて、修士修了後は就職するつもりで就職活動をしていましたが、本当に修士号を取ることができるのか、就職の内定がもらえるのかという不安でいっぱいでした。
「とにかく勉強すれば、いい仕事に就くことができる」
私がずっと親から言われていたことでしたし、学校の先生たちも、同じことしか言いませんでした。
私はそう思い込み、勉強を続け、進学しましたが、世の中は景気が悪くなるばかりでした。
そして私は孤独でした。心を開いて話す人が誰一人いませんでした。
実家から遠く離れた大学に通い、泥棒に入られたこともある酷いボロアパートで、食べるものも不満足に暮らしていました。
コンビニエンスストアのアルバイトとTA(大学の授業や教授の手伝い)の給料、借金となる奨学金が私の生活費のすべてでした。
ある日、大学院の先輩たち数人と世間話をしていました。
内容は、主に愚痴でした。
○○教授には力が無い、あの教授の下に居ても仕事はもらえない、
修士号を取ったある人は仕事が無くて生活保護で暮らしている、
などといった就職に関する不安から、
彼氏は何も分かってくれない、男は裏切るものだ、
といったような恋愛の愚痴まで。
一緒に居た人はみな相づちを打って、「本当にその通りだ」という風に聞いていました。
優秀な先輩から様々な愚痴が出て、私は「そういうものなのか」と不安にかられました。
愚痴の言い合いは2時間ほどだったでしょうか。世間話が終わり、その場がお開きになって、私は1人で自宅アパートに向かいました。
その途中です。
突然、今まで感じたことの無い激しい恐怖にかられました。
心臓がドキドキし、息ができず、手が震え、このまま狂って死んでしまうのではないだろうかとさえ思いました。眩暈がし、周りの景色は全く目に入らなくなりました。
とっさに誰かに見られたらと嫌だと思い、道端に隠れてしゃがみこみました。
15分ほどそうしていたでしょうか。
少し気分がましになり、私は家に帰りつきましたが、胸の底にある嫌~な感じ、不快な感じ、不安感はそのままでした。
こびりついたようにずっと、私の中にありました。
優秀な先輩でも就職がままならず、生活保護まで受けている人がいるという実態。
そして、放っておいても毎月増え続ける奨学金の借金。
こんなことをしていたら良くない、早く抜け出して働かなければという思いがぐるぐる頭の中を回りました。
自分は一体なぜ、借金してまで大学院なんて来てしまったのか。
どうして今まで誰もそのことを教えてくれなかったのか。
今まで頑張って勉強してきたことはなんだったのか。
自分の今までのなにもかもが無駄だったように思え、気分が悪くなりました。
大学院に入学した当初から、少しずつストレスをためていたのかもしれませんが、これをきっかけに大学院2年の春から一気に具合を悪くしたように思います。
思えば帰り道に起こったあれが、初めての発作でした。
今このように思い返して書くのも苦しいです。
その後私は、尋常でない焦りの気持ちから、少しずつ正常な判断力が無くし、混乱状態に陥るようになりました。
人前では普通に見えていたようですが、家で一人で居るときなど無性に死にたくなったり、怒り、悲しみ、不安、そういったどうしようもできない激しい気持ちの渦に巻き込まれたりするようになっていきました。